2014年6月29日日曜日

【闘争本能と序列意識】ワンアンドオンリーのダービー

競馬は馬の闘争本能を利して行われる。野生の馬は序列意識に基づき秩序立った群れを形成するが、そこに至るまでには馬同士の闘争がある。最も強い馬がボスとなり、序列に従った一群が形成される。

競走馬はレースを勝つために馴致され、また実際のレースには多様な要素が関与するため、同じ馬同士の対決でも着順は度々入れ替わることも多い。しかしながら、闘争本能と序列意識は勝ち馬決定のプロセスにおいて、今なお重大な影響を及ぼしている。

中島国治は『血とコンプレックス』(KKベストセラーズ)[AA]において、競馬で闘争心を持つ馬は2パターンしかいないといっている。つまり、1.イニシアティブ・ホースと2.チャレンジホースである。

1.イニシアティブ・ホースとは、レースに勝ってプライドを持っている馬を指す。
2.チャレンジホースは、闘争本能を欠如させるコンプレックを持っていない馬、少なくともコンプレックの対象となる他馬がそのレースに1頭も出走していない馬。また、前走で着順が下位であっても、差を詰めてゴールまでスピードの落ちなかった馬を指す。

他馬へのコンプレックスは以下のようなケースで生じる。

a.直線において競り負けた場合
b.直線において強烈に脇を抜き去られた場合
c.直線において前の馬を追ったが、逆に差が開いてしまった場合
d.4コーナーから決勝点までの間に危害を加えられた場合

また、コンプレックスにはほかに、血のコンプレックス、競馬場へのコンプレックスなどがある。
血のコンプレックスは中島の配合論と関わりがあり、非常に煩雑で議論も多いところであるため割愛する。ただ、競争能力に関係なく、強い相手にはあっさりと勝ちを譲る馬や、競り合うと怯むタイプの馬が生得的に有する底力のなさが想定される。
競馬場へのコンプレックスは競走中の骨折や転倒などのアクシデントにより生じる。

他馬へのコンプレックスを補足しておくと、とりわけ、全力で走って負けた場合に考慮すべきだ。というのも、本調子でない状態での敗戦や、苦手な条件等でレースを投げた場合、次走で巻き返してくる馬も多いからである。


ワンアンドオンリーが勝った今年のダービーは、以下のような人気順であった。

1番人気  2.7倍   13 イスラボニータ
2番人気  3.9倍   5   トゥザワールド
3番人気  5.6倍   2   ワンアンドオンリー
http://db.netkeiba.com/race/201405021210/

3頭はいずれも前走で皐月賞に出走しており、1、2、4着に入選。人気は着順どおりの順番となっていた。

皐月賞は馬場状態が良好で、先行有利の条件で開催された。外枠を引いたトゥザワールドは距離損を嫌って積極的に前に取り付き逃げ込みを図ったものの、好意内を進んだイスラボニータが鮮やかに抜き去り、1 1/4馬身差の快勝。出脚が遅いワンアンドオンリーは最後方からの競馬で、上がり最速を繰り出して差を詰めたが、及ばずの4着だった。

このレース内容から、イスラボニータは中島のいうところのイニシアティブ・ホース、ワンアンドオンリーはチャレンジホース、トゥザワールドはイスラボニータに対してコンプレックスを持った馬ということになる。

ダービーも良い馬場状態で先行有利。ただ距離が延びる分、イスラボニータは体力が懸念される一戦だった。レースはワンアンドオンリーがそれまでの出脚の悪さから一変した好スタートを決め、正攻法で先行したイスラボニータをゴール手前で交わして優勝。トゥザワールドは5分のスタートを決めるも行き足が鈍く、後方に置かれて見せ場なく5着に敗れた。
ワンアンドオンリーの横山典は賞賛されるべき好騎乗であったが、トゥザワールドの川田がこのレースで叩かれるのは少しかわいそうだ。これまでの論考から、スタートや行き脚の良し悪しは事前に考察可能な範疇といえるだろう。騎手のアイデアは重要だが、それに応えることのできる馬がそれを実現するのだ。

トゥザワールドのレース後の陣営コメントが非常に示唆的である。
(Web上にあったクラブ会員向けコメントを転載)
6/1  池江厩舎
1日の東京競馬ではスタート後に行き脚がつかず中団後方の外を追走する。直線ではジリジリながらも前との差を詰めて来たが、最後はまわりと同じような脚色になり5着。
「ゲートは普通に出てくれましたからそのまま好位から運ぶことを考えていたのですが、いつもほど進んで行かずに思っていたより後ろからになってしまいました。元々、前走より溜める考えはありましたが、そうは言っても13番の後ろにつける形をイメージしていたのですが…。中間の動きはもちろん、今日の競馬前に跨がってからの雰囲気は悪くなかったですから状態云々ではないです。それだけにもっと前半にアクセルを踏んでいったほうが良かったのか…。今日は最初のコーナーの入り方がすべてです。上手く乗ることができず大変申し訳ありません」(川田騎手)
「前走は枠が枠だったので少し促して行かざるを得なかったものの、今日は内目の好枠でスタートは決まったと思いますし、いつものこの馬なら極端なアクションをしなくてもスーッと前に行けるはずが、全然行けませんでした。そうこうしてる間にどんどんと外の馬に前に入られて余計に下がってしまいましたし、全体の動きも影響して外に押し出されてしまいました。意識的にあの位置を狙っていたのならまだしも、それこそ好位から前に目標を置いて進めるという狙いが、早々に崩れてしまいました。勝ち馬と2着馬には少し離されてしまいましたから、こちらがスムーズにいって結果がどうだったかは何とも言えませんが、自分の形で競馬をできなかったのは事実ですし、残念です。そして、何よりもいい走りをして結果を出せず、会員の皆様に対して申し訳ない気持ちです。まだ競馬が終わった直後ですのですぐに今後の予定を立てられるわけではありませんが、まずは春の疲れをしっかり癒して、秋に向けてまた調整を開始していきたいと思います」(池江師)
皐月賞では結果的に勝ち馬に目標にされてしまいましたし、今回は好位につけながらも脚を溜めて終いにかける狙いだったのですが、スタート後は思っていた以上に勢いがつかず、後手に回ったことで厳しい戦いを強いられてしまいました。前走、そして今日の競馬と最良の結果を目指していただけに悔しさが増してしまいますが、血統的にはこれからの成長が期待できますし、先々の走り、結果に期待したいものです。
血統面ではトゥザワールドはトゥザグローリーの全弟にあたる。トゥザグローリーはG2級では強い競馬をするので、G1でも幾度か人気になったが、最高が3着。良い成績を残せていない。キングカメハメハ×サンデーサイレンスというトレンド種牡馬同士の配合で、競争能力は高いが底の浅さを感じる。キングカメハメハ自体、トップクラスでもクラスに壁のある産駒が割と多い。


以上、今年のダービーをサンプルに競走馬の闘争本能と序列意識について論考を行った。

私は今井雅弘の理論をベースとした予想で15年ほど馬券購入を続け、近年は単勝を中心としたスタイルで利益を上げている。本ブログは、競走馬の闘争心を中心に論考を進め、馬券の精度を高めていくために編まれている。どうぞよろしく。